第1章「変わらない日常」 -もう1つの家族-

バイト先は「ユーフォリア」というカフェ兼軽食店でウェイターと調理補助をやっている。
従業員は店長である香坂 沙希さんとその妹の香坂 真衣さんとアルバイトである僕の3人だ。
ユーフォリアは少しわかりにくいところにあり、ほとんど常連しか来ないのでこの人数で十分やっていける。
ユーフォリアでアルバイトすることになったのは両親が事故で亡くなり、周りのことがすべて片付いたころ、
大量の荷物を持って歩いていた沙希さんを見つけ運ぶのを手伝いお店へ行ったのがきっかけだ。
そこでいろいろ話をしているうちにそこで働くことになったのだ。
学校から家までの帰り道にあるのでいつも制服のまま寄ることにしている。
ドアを開けるとカランカランとベルが鳴る。
「あ、静くん。おかえり。」
店内に入ると沙希さんが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、沙希さん。」
こうやって”おかえり”と言ってくれるのは僕が一人暮らしをしているということを気遣ってだろう。
アルバイト初日、おかえりと言われたときはほんとに嬉しかった。
さらに、
「ユーフォリアにいる間、静くんは私たちの家族だかね。」
「遠慮とかしたら怒るわよ。」
と笑顔の沙希さんと真衣さんに言われ泣きそうになってしまった。
と考えている場合ではないのでカウンターに入りエプロンを付けて接客体制に。
仕事を始めてすぐ真衣さんがいないことに気づく。
「沙希さん、真衣さんは?」
とカウンターで調理している沙希さんに尋ねる。
「あ、真衣ちゃんなら少し用事にでてるわ。もうすぐ帰ってくると思うけど。」
となぜか笑顔で少し笑いを堪えている様にも見える。
こういうときの沙希さんは真衣さんと一緒に何か企んでいる事が多い。
沙希さんは見た目、知的で優しいお姉さんという感じだが内心は結構おちゃめだったりする。
急に呼び出されたと思えば僕の誕生日パーティーをやってくれたり、遊びに連れて行かれたりetc・・・
全部、僕のことを考えてやってくれているので断れないし、自分としてもかなりうれしかったりする。
今回も何を企んでいるのだろうと楽しみにしている僕がいた。


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