第1章「変わらない日常」 -暖かい時間-

接客を中心に仕事をこなしていると
「姉さん、ただいま。」
裏口から真衣さんの声が聞こえた。
「真衣ちゃん、おかえり。」
「おかえりなさい真衣さん。」
2人で出迎える。
「静帰ったたんだ、おかえり。あ、姉さんこれ。」
と沙希さんに紙袋を渡す。
何が入ってるんだろうと気にはなりながら仕事に戻ることにした。
「あ、ちょっと、静。これが何か気にならないの?」
手に持った袋を見せながら真衣さんが呼びかけてくる。その隣にはにこにこした沙希さん。
「気にはなりますが、前回のこともあり嫌な予感もしなくもないので・・・」
「前回って何かあったっけ?」
と沙希さんも真衣さんも不思議そうに首をかしげた。
この2人どうしてこう・・・
確かに前回のことは2人にとっては何もしていないかもしれないが僕にとってはかなりきつかった。
今回みたいに紙袋の中身が気になって尋ねたのがそもそもの失敗だった。
営業時間が終わるまで待つように言われる。
そしてその中身はというといわゆる男子禁制の売り場で売られているものだった。
即帰ろうとするものの捕獲され品評会(?)につき合わされたのだ。
その結果、僕はこの2人に男として見られていないのだろうということがわかった。
どっちかっていうと弟や子供という感じなのだろう。
沙希さんはいろいろ世話を焼いてくれるし、真衣さんは後ろから抱きついたりとスキンシップが激しい。
そうやって家族のように扱ってくれるのは素直にうれしい。
うれしいのだが、2人ともやりすぎだと思う・・・
「この前の営業時間が終わった後のことですよ・・・」
2人に説明。
「あぁ、あのときの事ね。別に普通じゃないの?」
ガクッ。あの、沙希さん。姉妹同士ならともかく家族といえど男の前でやるのは普通じゃないと思います・・・
口に出すと堂々巡りになりそうなので黙っておく。
「そんなことより姉さん。」
そんなことなんですか・・・
「あ、そうね。」
真衣さんが急かすと沙希さんが中身を出して
「着替えてきてね。」
と僕に服を渡す。
「静のウェイター服よ。前から注文してたんだけど今日やっと出来てとりに行ってたってわけ。」
真衣さんが説明。
「いつまでも制服にエプロンじゃカッコつかないでしょ。」
2人の心使いがほんとにうれしかった。
「真衣さん、沙希さんありがとうございます。さっそく着替えてきますね。」
2人にお礼とお辞儀をしてカウンターの奥からリビングへ。
そこで手早く着替えフロアへ戻る。
「うん、よく似合ってるね。カッコいいよ。」
と沙希さんに褒められ後ろからのしかかるように真衣さんが抱きついてくる。
「あの、真衣さん。そうされると仕事が出来ないのですが・・・」
「いいじゃない。少しくらい。」
結局開放されたのは10分くらいたった後だった。
その後はてきぱきと仕事をこなしていく。
それほど忙しくはなかったので沙希さんや真衣さん、常連さんたちと話をしながら過ごす。
話題はだいたい僕のこと。学校はどうかとか、食事はどうとか。
ほとんどの常連さんが僕の事情を知っているのでそうやって気にかけたりしてくれる。
1日で僕はこの暖かな時間が大好きだ。


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